抗がん剤や手術から副作用がほとんどない分子標的療法まで、がんとの正しい闘い方。


精密検査の結果乳がんと診断されたら、治療がスタートします。がんを取り除く(がん細胞を死滅させる)ための治療です。ここで大切なことは、急いで治療を開始することよりも、まずは落ち着いて適切な治療法を選ぶことです。乳がんは比較的進行の遅いがんです。たとえばみつかったしこりが1cmくらいの大きさだった場合、その時点ですでにがん細胞が発生してから7~8年、もしくはそれ以上の時間が経過していると考えられます。今さら慌てる必要はありません。

治療方法の種類

①手術(外科療法)

がんを切り取ることを目的とした、乳がん治療の基本となる方法です。乳房や筋肉をどれだけ残すかによって、4種類に分けられます。また、通常の乳がん手術では、がんの転移や術後の再発を防ぐために、がんと同時にわきの下のリンパ節を含む脂肪組織も切除し、検査します。乳がんがしばしばわきの下のリンパ節から別の部位に転移することがあるためです。乳房を切除せざるを得ない場合もありますが、そういった方も周りの目を気にせず利用できる温泉施設乳房再建手術など、治療法だけではなく、乳がん患者さんへのサポート体制も進歩しています。

(1)胸筋温存乳房切除術

乳房とわきの下のリンパ節を切除する方法です(胸筋の一部を切り離すこともあります)。現在もっとも一般的な乳がんの手術です。

(2)単純乳房切除術

がんのある側の乳房の切除のみを行なう方法です。(1)との違いは、わきの下のリンパ節の削除を行なわないことです。

(3)乳房温存手術(乳房部分切除術)

美容(見た目)的な影響を最小限にとどめることを目的に、しこりを含む乳房の一部のみを切除する方法です。2000年以降は、この方法が乳がん手術全体の40%以上を占めています。

(4)胸筋合併乳房切除術(ハルステッド法)

乳房とわきの下のリンパ節に加え、乳腺の下の胸筋も切除する方法です。1980年代にはこの方法が主流でしたが、今ではがんが胸の筋肉に達している場合にしか行なわれていません。

②放射線療法

がん細胞を小さくする(死滅させる)効果のある放射線を、患部に照射する方法です。1~2分間、がんのある箇所を狙って照射します。乳がんの治療においては、主に上記の切除手術後にがんの再発や転移を防ぐ目的で行なわれます。多くの場合、この治療には入院は不要です。
放射線療法は以下のような副作用を伴う場合があります。
・照射した箇所が日焼けしたように赤くなる→治療終了後1~2週間でほとんど改善
・皮膚が熱を持つ、あるいはカサカサになる→治療終了後1~2年で回復
・(肺に炎症が起きて)咳や微熱が続く→担当医に相談しましょう(治療終了後数ヶ月以内は起きる可能性があります)

③薬物療法

乳がんにおける薬物治療には、いわゆる抗がん剤を使った化学療法に加えて、ホルモン療法、分子標的療法という方法があります。治療法による違いや個人差はありますが、いずれの場合も多かれ少なかれ副作用を伴います。事前に担当医師から効果や副作用について十分に説明を受け、理解しておくことが大切です。

(1)化学療法(抗がん剤)

概要:
化学療法はがん細胞の増殖や分裂を阻害する抗がん剤の点滴や内服によって、がんを小さくしたり、死滅させたりする治療法です。乳がんのがん細胞は比較的抗がん剤に反応しやすい(抗がん剤が効きやすい)がんだと言われています。放射線と同様の手術後の再発・転移を防ぐ目的の他、手術前にしこりを小さくする目的で行なわれることもあります。

副作用:
抗がん剤療法では、使用する薬物の種類によってさまざまな副作用が現れます。ドラマなどでよく見る頭髪の脱毛や吐き気のほか、眉毛・まつ毛の脱毛、白血球・血小板の減少、下痢、口内炎、不眠、肌のくすみなど、その症状は多岐に渡ります。これは、抗がん剤ががん細胞だけではなく、骨髄細胞、消化管の粘膜細胞、毛根細胞などの正常な細胞にも作用するためです。美容面にも影響のある抗がん剤の副作用ですが、今は脱毛で悩んでいる方のための豊富なウィッグやそれを考慮してくれる美容室、お化粧方法を教えてくれるサービスなどもありますので、ぜひ積極的に利用してみてください。

(2)ホルモン療法

概要:
乳がんのうち約70%は、その増殖に女性ホルモンが強く影響しているとされています。これらのがんは「ホルモン感受性乳がん」、または「ホルモン依存性乳がん」と呼ばれます。体内のホルモン量を薬物によってコントロールすることで、これらのがん細胞の増殖を阻害するのがホルモン療法です。

副作用:
ホルモン療法の副作用は、抗がん剤に比べるとかなり軽く済みます。症状としては、顔面の紅潮やほてり、のぼせ、発汗、動悸(どうき)などがあります。多くの場合、これらは治療開始後、数カ月から数年で治りますが、症状がひどい場合は薬物そのものを変更することもあります。また薬剤によっては高脂血症、血栓症、骨粗しょう症のリスクが高まる場合があり、それらを抑える治療を並行して行なうこともあります。

(3)分子標的療法

概要:
分子標的療法は、比較的新しい治療方です。全体の20~30%の乳がんは、そのがん細胞の表面にHER2と呼ばれるタンパク質をたくさん持っており、女性ホルモン同様、このHER2タンパクもまた、がん細胞の増殖に大きく関与していることがわかってきました。分子標的療法は、このHER2タンパクを狙い撃ちし、その働きを阻害することで、がん細胞の増殖を防ぐものです。

副作用:
寒気や発熱などの症状が知られています。ただし、分子標的療法で用いられる薬物は抗がん剤とは異なり、がん細胞だけを標的にするので、その副作用も軽度です。

繰り返しますが、乳がんは治せる病気であり、発見できさえすれば上記のようにさまざまな方法で治療することができます。患者さんが多いがんであるが故に、数多くの有効な治療法やアフターケアの方法も確立されているのです。がんがみつかったからと言って必要以上に落ち込まず、そのときにできる最善の方法を医師といっしょに落ち着いて探し、前向きに治療に取り組んでください。

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手術後の生活について

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